会社が業務上横領の被害を受けた際、企業はどう対応するべき?
大企業における横領が発覚した場合、ニュースに取り上げられることがしばしば見受けられる昨今ですが、1年間に起きている横領の件数をご存じでしょうか。警察庁が発表している刑法犯に関する統計資料によると、令和2年における認知件数は1,388件で、減少傾向にあります。しかし、検挙件数は減少しておらず、令和2年には1,220件発生しており、平成23年から年間約1,200件発生しています。特に横領は諸刑法犯と比べて発覚しないことが多々あるため、検挙率は年々減少しています。
会社が業務上横領の被害を受けた際に、どのような対応をする必要があるのか、未然に防ぐための予防策について本コラムではお伝えします。
業務上横領罪とは
まず、業務上横領罪について解説します。業務上横領とは、「業務上、自分の判断で財物を利用・処分できる状態において、他人の物を任務に背いて処分すること」を指します。会社から管理者として資産の管理を任命されている人が該当するため、サークルなどの会計責任者がお金を預かる行為も当てはまります。よくある例として、仕事上会社から預かっている物品(お金を含む)を自分のものにしてしまうことが挙げられます。他にも以下のような横領事件が発生しています。
1.従業員が顧客から集金したお金を横領する事例
2.経理担当の従業員が会社の口座から自身の口座に振り込む事例
3.社長、取締役が接待費等の領収書を偽造、改ざんし、経費を請求する事例
4.店長や支店長が会社に売上を過少報告し、差額分を横領する事例
5.運送業者が顧客の荷物を自分のものにする事例
業務上横領の時効
業務上横領が刑事事件として立件される可能性があるのは横領から7年(刑事訴訟法250条2項4号)とされています。7年が過ぎると処罰を求めることは一切できませんが、横領された金銭の返還請求は「被害者が被害の事実と犯人を知ったときから3年間」または「横領されたときから20年間」の時期が早い条件が採用され、可能となります。(民法第724条)。上記の期間が過ぎると返還請求も不可となります。
会社で業務上横領が起きたときの対応策
①証拠の収集
従業員による横領を発見した際に、まずやるべきことは証拠を押さえることです。これは迅速に行う必要があり、「誰が」、「どんな方法で」、「どのような物品を(どれくらいの金額)」の横領を行ったのかを明らかにしなければなりません。横領発生から時間が経過するほど、証拠の収集が難化することが多いため、素早い証拠収集が求められます。
しかし、状況に応じて必要な証拠は異なり、取得方法が難しいケースもあります。横領が発覚した段階で一度弁護士に依頼し、適切な対応方法をとれるよう相談することをお勧めします。
②関係者に対する事情聴取
横領に関する証拠の収集が進んだ後は、当該従業員を含む関係者へ事情聴取を行う必要があります。関係者とは、当該従業員の周辺の上司や部下、同僚であり、事情を知っている可能性が高い人物を指します。なぜ、関係者にも事情聴取をする必要があるのか、それは関係者が共犯の場合、口裏合わせをされてしまう可能性が高いからです。事象聴取の結果、本人が横領の事実を認めた場合、返済を約束する「支払誓約書」を、認めない場合は「弁明書」提出させます。「支払誓約書」は、横領の事実を認めた証拠になり、「弁明書」は裁判で争う際の参考資料になります。
③損害賠償請求、返済請求
横領の事実を認めた場合、横領した金品の返還請求を進めます。身元保証書を取得し、身元保証人へ請求可能かどうか確認し、返還能力を見極めたうえで内容証明郵便による返還請求を実施しましょう。
④懲戒解雇
横領をした従業員は基本的に懲戒解雇をする場合がほとんどです。ただし、事前に十分な証拠が無いまま裁判に臨むと、不当解雇として敗訴する可能性もあります。そのため、横領発覚後の証拠集めは非常に重要と言えます。
⑤刑事告訴
当該従業員が横領を認めない場合、または金銭が返還されない場合に、刑事事件として対応する必要があります。警察に告訴し、業務上横領事件として捜査・処罰を求めることになります。
業務上横領を事前に防ぐための対策
横領を発見しづらい職場環境にしてしまっている会社は一定数存在し、横領の金額によっては経営に大きな影響を与えるため、企業にとっては大きなリスクとなっています。横領は事前に対策を立てておくことが重要で、仮に横領が発生したとしても、証拠集めを容易化することに繋がります。具体的に社内で進めるべき対策は以下の通りです。
1.経理のチェック体制を見直し、2人以上で対応する
2,毎日、帳簿残高と現金の額を一致させる
3.預金の出金履歴を定期的に確認し、不審なものがないかチェックする
4.出金伝票を活用する
おわりに
いかがでしたでしょうか。横領は発覚した直後が非常に重要です。証拠を隠されたり、共犯者との口裏合わせが行われると、追及することが難しくなるからです。迅速かつ適切な対応をする必要がありますので、横領発覚後は速やかに弁護士へご相談ください。
当事務所では、企業法務トラブルのご相談は初回無料で行っております。横領でお困りの方は弁護士までご相談下さい。
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