残業にまつわる諸問題とは
1 残業の概念
・「(法定)時間外労働」とは、労働基準法で定められた労働時間(原則は1日8時間、1週40時間)を超えて行われた残業のこと
・「法内残業」とは、会社が定めた所定労働時間を超え、労働基準法で定められた労働時間以内の範囲で行われた残業のこと
例えば、午前9時から午後5時までの勤務で、休憩時間が1時間ある場合は、会社が定めた所定労働時間は、1日7時間ということになる。
これは、労働基準法で定められた1日の労働時間(8時間)よりも短い所定労働時間ということになり、この場合、午後8時まで「残業」を行ったとすると、午後5時から午後6時までの1時間は、所定労働時間を超え、法定労働時間の範囲内で行われた「法内残業」午後6時から午後8時までの2時間は、法定労働時間を超えて行われた「(法定)時間外労働」ということになる。
2 割増賃金の支払義務
上で述べた2種類の残業のうち、労働基準法によって割増賃金の支払義務があるのは、(法定)時間外労働だけで、法内残業については、労働基準法上、特に割増賃金の支払義務は定められていない。
したがって、法内残業を行った場合に、いくらの賃金を支払うこととするのかは、労働契約ないし就業規則(賃金規程)の規定によって決まることとなる。
3 残業代の計算方法
(1) (法定)時間外労働については、
時間外労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1.25(※)
※1か月の時間外労働が60時間を超えた場合は、その超える部分については、1.5
(2) 法内残業については、
法内残業の時間数(時間)×就業規則等で定める1時間あたりの単価(円)
4 残業をさせることができる要件
36協定+残業命令
36協定の届出は、「残業をさせても違法ではなくなり、刑罰を受けなくなる」という効力(免罰的効力)があるだけで、実際に残業を命じるためには、「契約上の根拠」が必要。判例によると、就業規則に「36協定の範囲内で時間外労働をさせることができる」旨の定めがあり、その規定が合理的なものである限り、労働者は残業命令に応じる義務がある、としている。
5「残業をすることは社員の権利か?」
労働基準法上の労働時間とは「社員が会社の指揮命令下に置かれる時間」をいう。会社の指揮命令下になく、社員が私的な活動のために会社に残っている時間は労働時間には含まれない。
したがって、基本的には「会社の指揮命令下」にない時間は、残業時間として取り扱う必要がない。残業する権利はない。
6 具体的な残業命令がなければ残業代を支払わなくてもよいか
具体的な残業命令なしでも残業代の支払いが命じられた裁判が多くあり。
→「黙示の残業命令」が存在するということで残業代が認定されている。
具体的には
・残業で業務を処理することを当然なこととして、上司が黙認した場合
・業務上やむを得ない理由で残業をした場合
・残業しなければならない客観的な事情がある場合
などは「黙示の残業命令」があったと認められる。
7 裁判例
- リゾートトラスト事件(大阪地判平成17年3月25日)
・経理担当者の残業と休日出勤について、この社員は日常的な事務を担当 し、原告が主張するような残業する量ではなかった。
タイムカードがなかったが、繫忙期か否かとか同じ部署の他の社員の勤務時間から推測で残業時間を一部認定。
・遅くまで残っていることは、社内でも一般的な認識となっており、上司が早く帰るように何度も注意したが、帰らなかった。
この判決は、
・会社は残業、休日出勤の命令をしていない
・業務の量は残業、休日出勤するほどでもない
として、会社が勝訴。
この裁判のポイントは
- 残業命令があったか?
→逆に、残業しないように上司が注意している
- 残業(休日出勤)するほどの仕事量だったか?
→日常的な仕事のみで、それほどの量ではない
したがって、会社が「残業の内容と量」を把握して、きちんと労働時間を管理
していれば、勝手な残業は認められないし、黙示の残業ともならない。
cf)吉田興業事件 (名古屋地裁 平成2年5月30日)
住み込みで建物管理を行なっている者が戸締りを時間外にしたことは、 いつでもできる業務を自発的に勤務時間外に行っただけなので、残業代は不要
ニッコクトラスト事件(東京地裁 平成18年11月17日)
寮の食堂を運営している者が、勤務時間外に要求以上の水準の料理やサ ービスをしたことは、社員自らの判断で行ったに過ぎないので、残業代は不要
8 黙示の残業とみなされないためには
- 業務内容が残業を前提としていない
- 残業を事前許可制とする
→事前申請書と報告書を「必ず」提出させる。
9 長時間残業と自殺
- くも膜下出血で死亡の男性、長時間労働による過労死認定
~ある製造会社の下請け会社で、46歳の男性が亡くなった事例です。被害者が死亡する前の2ヶ月間、80時間の時間外労働があったことが明らかになっています。
(参考:毎日新聞|パナソニック下請け男性、過労死ライン残業続く)
- 長時間労働で適応障害発症、労災認定へ
~大手電機会社勤務の男性31歳が160時間を超える残業の末に適応障害を発症し、神奈川労働局藤沢労働基準監督署によって労災認定されました。被害者は「早く死にたい」「逃げたい」などとばかり考えていたようです。
(参考:毎日新聞|三菱電機 31歳男性の労災認定 違法残業で適応障害に)
- 大手広告会社女性新入社員、過労の末自殺
~新入社員で当時24歳だった女性が過労の末に自殺しました。労基署が認定した彼女の1ヶ月間の時間外労働は105時間だったといいます。激務の末に疲労やストレスが溜まっていた様子が伺えます。
(参考:朝日新聞|電通の女性新入社員自殺、労災と認定 残業月105時間)